自分史の製本体験記

「ちゃんとした本にしたいなぁ」

父の最期の願いでした。

私は地元の高校を卒業後上京し横浜で就職しました。

以来20年、何とか独立しやっと郷里に戻って一週間、父が入院しました。

検査の結果、病名は「食道癌」。

転移も進んでおり既に手遅れで余命は僅か3ヶ月とのこと。

何もしてあげることができず、あっという間に逝ってしまいました。

既に母は他界しており、残されたのは父がひとりでこつこつとワープロで打ち込み糊付けしたものをビニール紐で簡単に綴じただけの一冊の自分史「こいつの道程」だけ。

人の宿命とはこんなものかと思い、ショックでした。

製本したいという願いは入院する前から聞いていましたが、その時はまさか癌に侵されているとは知る由も無く、

「そんなものは誰も読まない。お金の無駄だからこの一冊だけあれば上等」

と取り合いませんでした。

通夜の晩、皆が疲れて眠ってしまった後、線香と蝋燭を見守る以外は何もすることも無く、ふと自分史のことを思い出し、ひとり読んでみました。

初めて知る父の一面や、私も知っている想い出もあり、自然に涙が溢れ出てきました。

父は若い頃から酒好きで、食道癌はアルコールが原因との事です。

父は事業に失敗し、母を亡くしてからは酒量も増え寂しい晩年を過ごしていましたが、自分で招いた結果なのだからと慰めることもしませんでした。

しかし、自分史を読み進むうち、父の生い立ちや育った環境、子供の私には理解できなかった当時の事情や父の苦労などを知ることができ、改めて父を知ったような気持ちになりました。

また、自分では忘れていた過去の楽しかったことも鮮やかに思い出し、両親共に亡くした悲しみが癒されたことも事実です。

正直、父の晩年にはあまり良い想い出も無く、むしろ自業自得とも思っていましたが自分史を読むうちにそんな気持ちは消え、もっと親孝行しておけば良かったと後悔しました。

まさに「孝行したい時に親は無し」です。

晩年こそ、私に限らず兄弟にもあまり良い想い出を残さなかった父ですが、母が存命中は親子での楽しい想い出もありました。

父の自分史は正にそれらを思い出させてくれたのです。

私はこの時、この気持ちを兄弟や親戚にも思い出してもらうため、父の生前は取り合わなかった「製本」を本気で決意したのです。

製本ってどうやるの?

生前、父からは製本を印刷屋さんに頼むと大体10万円位と聞いていましたが、お金の無い私には大金で、なんとか安く済ませたいと思い最初は手作りを志向しました。

しかし製本の“いろは”も知らない私には製本の仕方が全くわかりません。

インターネットでとりあえず「手作り製本」「自分史の作り方」など思いつくままに検索し製本の方法を勉強することにしました。

そして紙の種類や綴じ方など少しは製本の方法も判り何とかなりそうな気持ちになってきたところでふとある重要な問題に気づきました。

それは所有しているインクジェットプリンターでは“すぐにインクが色あせる”ということです。

私は過去に自分の名刺をこのプリンターで印刷したことがあり記念にとパソコンのモニターに1枚貼り付けていましたが、一年も経たないうちにすっかり色あせてしまい、結局印刷屋さんで刷り直したのを思い出したのです。

この問題を解決するためにはレーザープリンターを購入するしかありません!

やっぱり印刷屋さんに頼もう!

私は職業柄レーザープリンターも重宝しますのでこの機会に購入するという選択もあったのですが、元々父の希望は書店に並んでいる書籍のような形式の製本だったことと、オンデマンドプリントという方法でどうやらもっと安く製本が可能だということが判って来たので手作り製本をやめ印刷屋さんに頼むことにしました。

何で何回も同じ事を打たなくちゃいけないの?

印刷することにしたものの、一体どこに頼めば良いのでしょう?

困った時は例によってインターネットで検索するに限ります。

早速「オンデマンドプリント」「自費出版」「少部数 製本」などで検索しました。

出てきました!

それも結構な数です!!

私が知らないだけで既に世の中は小部数の製本が可能になっていたのですね。

早速、検索結果の上位から順番に問合せフォームや見積りフォームを捜しせっせと製本したい内容と名前や住所などお決まりの事柄を打ち込みました。

結局10社以上申し込みを行いましたが、そのうち嫌になって申し込みをやめ、それまで申し込んだところからの回答を待つことにしました。

一社や二社ならともかく、10社以上となると各社ごとに申し込み方法を探して申し込むという作業はかなり面倒です。

各社で記入する内容は同じで“名前”と“住所”と“製本の内容”です。

名前と住所は同じなのでコピーで良いのですが、製本の内容が曲者で、各社で微妙に違います。

会社によっては例えば出来上がりのページ数とか写真の数まで聞かれます。

今となっては確かにこれらの情報が必要なことはわかりましたが、当時は

「原稿をこれから編集しようって時にページ数を聞かれてもな」

というのが正直な気持ちでした。

そしてこの頃には既にどこに見積もり依頼をしたのか殆ど覚えていませんでした。

ほならこうしまひょ!

そんな時に石川特殊特急製本の専務さんから電話がありました。

細かいやり取りは忘れてしまいましたが、覚えている範囲で再現すると

専務さん 「どんな本にしたいんですか?」
「本屋に並んでいるような本です。」
専務さん 「何ページ位になりますか?」
「まだ編集前なのでわかりません。」
専務さん 「大体でいいですから。」
「多分100ページ位だと思います。」
専務さん 「表紙は硬い表紙ですか?柔らかい表紙ですか?」
「硬いのが良いですけど普通はどうするんですか?」
専務さん 「表紙に箔押しで文字を入れますか?」
「決めてないんですけど、普通はどうするんですか?」
専務さん 「カバーはつけますか?」
「できれば付けたいんですけど、普通はどうするんですか?」
専務さん 「何冊位製本しますか?」
「20〜30冊だと思いますけどまだ決めてません。」
専務さん 「予算は?」
「できるだけ安く作りたいんですが1冊あたりどれ位でできますか?」

専務さんに聞かれることにわかる範囲は答えるものの、質問に質問で答えるようなやり取りに専務さんから

専務さん 「ほならこうしまひょ。とりあえず希望に沿うようなのを一冊作って送りますんで原稿を送って下さい。それを見てもらってから後の相談をしまひょ。それとは別にすぐ見積り送りますんでFAX番号教えて下さい。」
「でもそちらにお願いするか決めてませんよ」
専務さん 「かまへん。かまへん」

待つこと10分。

プルル・・・プルル・・・ガチャ・・ブーーン、ジジジ・・・

来ました。

どれどれ「ん?安い!!」

再び専務さんから電話が入りとりあえず一冊作っていただくことにしました。

出来上がったものはまったく書店に並ぶようなハードカバーの自分史でした。

少し内容や写真を修正して、残りを作って頂きました。

編集に1年かかりましたが、印刷を頼んでからはあっという間で、印刷にかかった時間は実質1週間もかからなかったと思います。

まさに特急印刷。

一周忌の引き出物に

出来上がった自分史は一周忌の引き出物にしました。

大変喜んでいただき、遠方から来ていただいた叔母は帰りの新幹線で一気に読んでしまったとのことでした。

やはり私と同じで、父との想い出が鮮やかに蘇り、涙が止まらなかったそうです。

その話を聞いて、再度、何か自分史の普及のお役に立ちたいとの気持ちを新たにしました。

という訳で

自分史の製本のノウハウや、文章の起こし方などは沢山の方が本やホームページで紹介しています。

私も何かお役に立つような情報を提供したいと考えた結果、今回一番困った印刷屋さんの検索ができるよう、全国の印刷屋さんのデータベースを作りました。

今は、ごく少ない情報しか提供できていませんが、随時情報を追加していきたいと思っています。

製本体験者の声や本サイトの利用者の声を集めて公開したいと思っておりますので、ご協力をお願いします。